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I Am David アイ・アム・デビッド

アメリカ映画 (2003)

ベン・ティバー(Ben Tibber)が主演する感動の名画。原作はデンマークのアネ・ホルム(Anne Holm)の『David(1963年)』。原作の邦訳と、映画の日本公開はほぼ同時期。原作と映画は、前半はほぼ同じだが、後半は全く異なり、映画の方がすっきりしているが、やや唐突に終わる。原作と映画の両方を見て、一番大きな違いは言葉の扱いであろう。原作では、主人公のデビッドが、収容所で10年近く暮らすうち、様々な言語を話せるという設定だ。だから、例えば、最初にイタリアに入ると、しばらくすると、かなり自然にイタリア語を話せるようになる。英語、フランス語、ドイツ語も同様だ。しかし、それを全編英語で話される映画で如何に表現するか、さらには、字幕で如何に表現するかは難しい問題である。ベストな方法は、イタリアのシーンでは全員がイタリア語を話すことだろうが、それではアメリカ映画として成立しにくい。

1952年、冷戦時代のブルガリアのベレネ収容所で、大人に混じって一人収監されている12才のデビッド。自分が誰で、なぜこんな目に遭っているのかもわからない。小さい頃からずっと収容所暮らしなのだ。収容所の所長の離任前夜、もう面倒が見てやれないから、デンマークに行けと脱走を命じられる。その言葉に従い、ギリシャに越境脱出し、貨物船に隠れてイタリア南端に到達。そこから徒歩で北に向かう。長い収容所生活のため、色々な言葉は理解できるものの、心に深い傷を負い、笑い方すら知らない少年。心の中では常に猜疑心と、親切にしてくれたフランス人の収容者ヨハンに対する “封印された記憶” がうごめいている。途中で出会った、イタリアの裕福な家庭。スイスの素人絵描き。少しずつ解けていく心の闇。そして、母の書いた本との出会い。世界18ヶ国で翻訳された原作だけあり、意外性と感動に溢れた作品だ。

ベン・ティバーは、その表情でキャスティングされただけあり、暗く、とまどったような表情がとてもいい。全編出ずっぱりなので、映画の出来はベンの演技の出来如何にかかっている。3回だけ見せる笑顔がとても印象的だ。


あらすじ

夜の収容所。その日、急に所長に呼び出されたデビッド。所長は、「私は、明日転任する。もう、お前を、守ってやる事はできん」。「時が来たら、密かに西の鉄条網へ行け。合図したら、高圧電流を切るから、30秒で鉄条網を越えろ」「丸太の陰に隠してある袋を探せ。旅に必要な物が中に入れてある」「磁石に従い、南のサロニカへ向かえ」「わが国とギリシャの国境は警戒厳重で、鉄条網に触れれば警報が鳴る。触るな」。「船に潜り込んでイタリアに行け」。「後は、ただひたすら、北へ向かって進め」「長く厳しい旅になるだろうが、デンマーク当局に封書を届けねばならん」と言って封印付きの封筒を渡す。デビッドは、夜遅くまでベッドで横になり、時間になるとこっそりと抜け出し、合図を待って必死に鉄条網を越える。
  
  

デビッドが無事森に消えたことを確認する所長。実は、所長はかつてデビッドの母のことが好きになり、終戦とともに拿捕された一家の母だけは何とか出国させたが、父は殺され、デビッドは “好きだった女性” の子供ということで目をかけて守ってやったのだ。森の中には、パン、石鹸、ナイフ、コンパスなどの入った袋がちゃんと隠してあった。コンパスを見ながら、デビッドは、言われた通りに南に向かう。
  
  

途中、輸送トラックに潜り込んだら、途中で検問に遭い、ホロの隙間から森の中に転げ落ちて何とか逃げる一幕もあった。ギリシャとの国境では、監視の巡回が行った後で、鉄条網の下の固い地面にナイフで穴を開け、何とかすり抜けた。そして、ひたすらサロニカ(テッサロニキのこと。国境から70キロにあるギリシャ北部の国際港湾都市)へ向かう。
  
  

デビッドは、港で、イタリア船籍の貨物船を見つけ、暗くなってからホーサー(係船索)を伝って船首に潜り込む。貨物室に隠れる。マッチを擦ってみると近くの箱に『皮むきトマト :サンタ・ローザ社』の大きなシールが貼ってあり、そこに簡単なイタリアの地図が描かれている。貴重な情報なので1枚はがして袋に入れる。その後で、船員に見つかってしまうが、ナイフと交換に見逃してもらう。この時、最初はイタリア語で話しかけられて戸惑うが、聞いているうちに、収容所でイタリアの神父と話したことを思い出し、聞き分けて話せるようになる。船員は、「港に入ったら、降りられん」「陸に近づいたら、降ろしてやるから、岸まで泳ぐんだ」と話してくれる。
  
  

イタリアの南岸に近づき、真夜中に甲板に連れて来られたデビッド。「心配ない。潮が岸まで連れてってくれる」と言われ、ライフジャケットをつけて、ロープで吊り下げられ、真っ暗な海へ。幸い、夜明けには岸が見えるようになり上陸する。横になって休むうち、太陽が上り、真っ青に輝く海が目の前に広がっている。こんな鮮やかな色彩を見たのは初めてだった。見つけた水溜りで、石鹸を使って全身と収容所服をごしごしこすり、過去を洗い流す。
  
  

映画の中では、何度も収容所の回想シーンが使われるが、代表的な2ヶ所のみを紹介する。最初が、洗濯シーンの直後。露天掘りの重労働中に、ヨハンと交わした会話だ。ヨハンはフランスのインテリなので、会話は “最も得意な” フランス語だ(映画では英語だが)。デビッド:「なぜ、僕らは、こんなに憎まれるの?」。ヨハン:「自分達と違う考えの人間は、憎むのが一番簡単だから」。「僕の両親もそうだったの? だから、僕もここに?」。「君の両親のことは何も知らないが、多分そうだろう」。「僕の両親って、どんな人たちなのかな? 何を考え、どこから来たのかな?」。「デビッド、私は、何一つ知らないんだ」。「僕、死にたい!」。「それは、口にするな! 考えることもダメだ!」。「なぜ? 苦しいだけだ! こんなトコで生きてて、何になるの?」。「生きてれば何かを変えられる。死ねば終わりだ。生き抜くんだ。何があろうと」。
  
  

最初に見つけた村に恐る恐る入っていくデビッド。お腹が空いたので並んでいるパンをじっと見る。それを見たパン屋が「パン、欲しいのか?」。「ええ、とても」。「金は、持ってる?」。「いいえ」。そこで中に呼び寄せ、「なぁ、パンを少しやってもいいが、その前に、やって欲しいことがある」「ほほ笑んでくれ」。「なぜ?」。「君は、国中で一番旨いパンが食える。だからだ」。しかし、デビッドにはどうやったらいいか分からない。変な子だと、警察を呼ぶパン屋(ケチで意地悪)。収容所送りになると思い、必死で逃げるデビッド。途中で、拾った鏡の破片で笑顔の練習をして、食料品店に入るデビッド。笑ってみるが、「どうした? トイレでも借りたいのか?」と言われてしまう
  
  
  

北に向かって歩くうち、ガソリンが切れて道路で立ち往生しているアメリカ人の金持ち夫婦に出会う。このシーンは映画では短くカットされ、意味不明になってしまっているので、未公開シーンの映像を使って、原作に近づけた内容で紹介しよう。会話は英語で、原作では、オックスフォードの学者のような英語で話すという設定だ。アメリカ人:「ガソリン、買ってきて もらえないかな?」。デビッド:「はい」「でも、ガソリンを買うお金なんて、ありません」。ここで、亭主がお金を渡そうとするのを妻が止める。「乞食よ。お金を渡したら、戻って来ないわ」。夫:「歩くのも待つのもイヤ。どうしたいんだ?」。夫人:「持ち逃げされる。保証するわ!」。夫:「後払いって事で、スタンドまで行って、誰か寄越してくれる?」。デビッド:「お金を見せないと、断られると思います」「でも、行って、頼むことはできます。後払いで届けてもらえませんか、と」「それなら、持ち逃げされないか、悩まずにすみますし」。この最後の一言で、恥ずかしくなり、お金を渡す夫。デビッドはさらに、「この荷物、見てて いただけます?」と、自分の大切な袋を置いていく。真っ赤になって受け取る夫人。デビッドが行った後、「恥ずかしい」と漏らす夫。戻ってきて、袋を返してもらい、お礼をもらうことは拒否するが、実情はお金がなくて腹ペコ。でも意地でも要らない。しかし、後になって袋を開けると、中に「信用しなくて済まなかった。 助けてくれてありがとう!」という手紙と一緒に、2000リラ(1万円くらい)が入っていた。映画では、山ほどパンを買っているが、原作では、伸び放題の髪を切るためのハサミ、クシ、石鹸、鉛筆、メモ帳なども買っている。
  
  
  

デビッドが泥棒と疑われ、殴られ、水槽で鼻血を洗っていると、「助けて!」という声が聞こえる。悲鳴は、もくもくと煙が出ている小屋から聞こえてくる。飛んでいくデビッド。扉を開けると、小屋の中は炎の海。椅子に縛り付けられていた少女を、命がけで助け出す。弟たちの悪戯で縛られていたのだ。そのまま気絶し、ベッドで目を覚ましたデビッド。目に前には心配した少女の顔が。「ずっと、そばにいたの。心配だったから」。「僕、どのくらい寝てたの?」。「昨日から、ずっと」。そして、「名前は?」。「デビッド」。「私、マリア。助けてくれてありがとう、デビッド。もう少しで 死ぬとこだった、って。あなたも危なかった。すごく勇敢なのね」。思わず、自然に顔がほころぶデビッド。「僕、今、ほほ笑んだ?」と訊く。
  
  

デビッドは、マリアの父母から、娘の命の恩人として感謝され、しばらく逗留して欲しいと頼まれる。広い庭をマリアと歩きながら、「世の中は、ひどい人間で溢れてるんだ。マリア」「邪悪なことばかり するような」「いっぱい、見てきた」と打ち明けるデビッド。父の書斎に案内され、そこに置いてあった地球儀で、デンマークがイタリアから遠く離れているのを知る。「デンマークは?」。「ほら、ここ」「途中に、スイスとドイツが挟まってるわ」。「デンマークに、行ったことは?」。「ないわ。あなたは?」。「これから行くんだよ」。その後、浴槽に入りながら、徐々に収容所の最後の数日間のことを思い出すデビッド。あまりに “思い出したくない” 出来事なので、記憶がブロックされていたのだ。ヨハンに「誰もいない時、執務室に忍び込んだ」と、石鹸を盗んだことを打ち明ける。「もし バレたら、どうなるか 知ってるのか?」。その後、全員が屋外に整列させられ、「誰がやった?」と問い詰められる。「撃て! 見せしめだ!」。デビッドの手にある石鹸を奪い、自分が手にもつヨハン。そして射殺されてしまう。デビッドは、罪の意識から、マリアに別れを告げて家を出て行く。
  
  

デビッドは、途中の町で、労働者のデモに巻き込まれ、警官に投石したと誤解されて囚人車に入れられる。警官に乱暴に扱われたため、封印が破れてしまった大切な封筒の中を見ると、そこには、自分の子供時代の身分証明書が3通入っていた。デンマークに行けとの命令を思い出し、火傷の包帯を上手く使ってドアノブを開け、逃げる出すことに成功する。
  
  

そのままヒッチハイクでミラノ北部の湖沼地帯へ。原作ではスイスのルガノ湖で素人絵描きの女性ソフィーに会うのだが、映画ではイタリアの湖だ。ミラノ北方だからコモ湖だろうが、映画はブルガリアでロケしているので、風景は全く異なり平板だ。ソフィーに、「あなたの顔、興味を そそるわね。描いても構わない?」と頼まれ、モデルになるデビッド。「あなたの目。こんなに黒を使うの、初めてよ。何て、思い詰めた目。何て、思い詰めた顔」。画家の目は鋭い。そのまま、国境越えしてスイスの自宅へ。そこで完成した絵を壁に架けて一緒に見る二人。「僕って、こんな…?」。「そうよ。私が受けた印象」。
  
  

ソフィーは、絵を見ながら、「私は、こんな風に感じるの」「この子は、とても聡明でとても真面目。それに善良」「でも、この瞳は何かを秘めてる。それに、顔も当惑して悲しげ」「だけど、私に分かるのはそこまで。『これ以上、探って欲しくない』って、この子が思ってるから」。「ほんとに、そんなことまで分かるの?」とデビッド。「ええ、そうよ」。夕食が終わり、ソフィーに、「何か、困ってることがあるなら、私でよければいつでも力になるわよ」と言われ、「お願い、引き渡さないで」と頼むデビッド。彼は、どこにでも秘密警察がいると信じているのだ。「ソフィーに、全部 話したい。でも、できない。話せないんだ…」。「デビッド。何も、話さなくていいの。ここが 安全だって知って欲しいだけ。何も心配しなくていいから」。思わず抱きつくデビッド。
  
  

翌日は、ソフィーに連れられて近くの村へ。ソフィーが用事を済ましている間、「いい人ばかりよ、デビッド。何も、心配しなくていいの」と一人にされる。そして、小さな教会に。そこで、はっきりと思い出すヨハンとの最後のシーン。デビッドは、屋外に整列させられ、左手に盗んだ石鹸を隠し持っている。それに気付いた所長がヨハンの目を見る。軽く頷き、デビッドの石鹸を取り上げるヨハン。厳しい顔で僅かに頷く所長。そして、おもむろに拳銃を取り出して、ヨハンを射殺する。ヨハンの自己犠牲と、所長の苦悩。教会の賛美歌で癒されるデビッドの良心。心の闇から解放されて、晴々とした表情で村を歩くデビッド。
  
  

ソフィーと待ち合わせた本屋に、山積みにされた本がある。ソフィーに本のことを尋ねると、「作者の女性は、終戦後のブルガリアで夫と息子を亡くした」「警備兵の一人が、彼女の幼馴染みだった」「彼女を愛していたので、書類を偽造して国外へ逃がした」と教えてくれる。本の裏表紙の写真は、デビッドが時々夢に見る女性だった。「その女の人、今も生きてるの?」。「ええ、デンマークに住んでるわ」。デビッドは、驚いて、自分の証明書をソフィーに見せる。2人は警察に急行。書類を見て、署長は即刻大使館に電話をかける。
  
  

ラストは、スイスの空港から。スイス側とデンマーク側の職員、それにソフィーと一緒に飛行機に向かうデビッド。最後にソフィーと抱擁し、搭乗前にも手を振る。そして、コペンハーゲン空港。関係者の真ん中に立つ赤い服の女性。2人が歩み寄る。「僕、デビッドです」。「分かってる、デビッド。分かってるわ」。そして、優しく抱きしめられる。
  
  

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